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あかり&あきら対談「シスジェンダーの悲劇」

更新日:2023年4月11日

今回、五月あかりと周司あきらの二人で話し合うのは、シスジェンダーの悲劇です。


A:五月あかり(出生時に男性を割り当てられたが、現在は女性に埋もれて生きている。トランスジェンダー) 


B:周司あきら(出生時に女性を割り当てられたが、現在は男性をやっている。トランス男性)


【きっかけの1冊:The Tragedy of Heterosexuality】


A:今日は「シスジェンダーの悲劇」について話す会だね。

B:やりたかった!

A:エミコヤマさんの『異性愛の悲劇』の紹介が面白かったんだよね。本読んだ?

B:途中まで読んだ。

A:どんな感じだった?


B:異性愛者、とりわけ異性愛者の女性って可哀そうだよねってクィアな女性たちが言ってて。同性愛が不運であるかのように世間では言われるんだけど、実際当事者目線だと逆に見えてる側面があるよって話。

A:なるほど。

B:とくになんでクィアの女性が語ってるかって言うと、異性愛女性は女性差別がある中で男性とセットで生きることを受け入れさせられるとき、社会的困難がめちゃくちゃあるわけで、それって大丈夫?って心配してるわけ。

A:ははは。なるほどね、クィアな人たちは可哀そうとか気の毒とか、苦労してるとか、上から目線で同情されることもあるけど、実際ヘテロの男でセクシストな人と一緒に人生を生きないといけないって相当大変そう…。


B:女性たちで「政治的レズビアン」になる人がいる一方で、男性たちで「政治的ゲイ」になる人がいないといった話も冒頭で少しだけ読めて面白かった。

A:ほー。

B:男性の狭さについて語られていた。この本の話はこれくらいでいいかな。これは同性愛者が異性愛者を心配してる本ではあるんだけど、これトランスとシスでもできるじゃん、って思って。

A:マジでそう!やろう!


【本編:The Tragedy of Cis-genderism/シスジェンダーの悲劇】


A:わたし自身、もうトランス(性別移行)しちゃって、自分がシス的に生きてた時の記憶とか失いつつあるんだけど、トランスして、ほんと世界の見え方は変わったし、あなたの言うように、シスの人たちって実はめっちゃ可愛そうなのでは、という気もしてきたよ。

B:今のあかりさんの発言の前半について言うと、昔は世界を見てなかったし、死にながら生きてきたから、その「トランスジェンダー状態(性別に違和のある状態)」について語るのは難しいんだけど、今になって遠目にみてると、シスジェンダーの人たちって窮屈そう、と感じる。


A:そうだよね。わたしも一生懸命「やりなさい」って言われた性別を頑張ってやってたし、トランスフォビアも抱えてたタイプだけど、今思えば、あそこで感じてた窮屈さって、シスの人も部分的に感じてるのかもしれないし、それどころか私たちみたいにその窮屈さを客観視するチャンスもないんだよね。かわいそうに。

B:なるほどね~。今日はその世間のトランスフォビアを終わらせる対談をしたいね。

A:うんうん。


B:ところで最近の私、トラニーチェイサー(トランスジェンダーを惹かれる対象とする人を指すスラング)的じゃん?

A:そうだね。彼女もトランス女性だし、今もわたしといるけど、わたしもまあトランスの女性みたいな感じだしね。トランスの人が好きなの?

B:分からないけど、好きになった人がトランスだったらラッキーとは思う。

A:ふーん。確かに、トランスの人同士だと、話しやすいことあるよね。シスが相手だと、例えば性器の名前とか口に出しただけでドン引きされたりするし。

B:そこ!?

A:あ、ごめん性器の話は深掘りしなくていいよ!


B:なんかね、一回人生壊れてる者同士だから楽なんだよ。沿わなければいけないレールとかないし。

A:それはそう!

B:レールが敷かれていることはシスの人自身も疲れてるんじゃないか、って気はする。

A:ほんとにそうだよね。なんか、私たちってトランスして、名前も性別も変わっちゃって、性別移行するプロセスで仕事も、住む場所も変わって、いろいろ人生が1回「終わって」るからね。なんか、ないよね、人生プランとか。進むべきレールとか。楽だよ~!


B:そうそう、今は考えずに生きてる。それにもう、自分の子どもがトランスだって知ってる親も、もう期待してないからさ、それも楽なんだよね。私は今男みたいに生きてるけど、親が息子に期待するような、「子ども産んでほしい」とか「稼いでほしい」とか、期待されてないしね。しかも、トランス同士で親密な関係になった場合は、相手側の親も自分の子どもに懸ける期待が1回ぶっ壊れてる可能性が高いので、あとは2人で幸せになればいいっていう楽さがある。

A:なるほどね、親との関係ね。わたしももう、女みたいになってから親とはほとんどまともに話してないけど、期待とかはされないよね。ちなみにわたしには兄がいるけど、兄には孫がどうとか、正月がどうとか、いろいろ期待というか押し付けしてて、兄の妻が可愛そう。

B:あぁぁー。シスジェンダーだと、シスジェンダーであり続けないといけないから、その役割を死ぬまで背負う気なのかな?めっちゃ疲れそう。他人事(笑)。


A:わかんない。ほんとしんどそうだよね。80年も生きるんでしょ?私たちって1回すでに死んでるから。誰かも言ってたけど、もう人生がボーナスステージなんだよね。何なら明日死んでも別にいいし、今生きてるのが既にラッキーボーナスだから、これから貯金しなきゃ!とか、ローン払わなきゃ!とか、ないよね。意味わかんない。


B:シスの人が何言ってるか分かんないこと多い。最初に多賀太さんの男性学の本を読んだ時も、シス男性の辛さが分からないから、何言ってるかピンとこなくて。

A:なるほどね。男性には期待がいっぱいだし、その男性の生きづらさについて男性学が考えることもあるなら、さっぱりだよね、あなたには。

B:わかんない、正直私は男をやれてるだけでボーナスステージだから、シス男性が「辛い」って言ってるのが最初から何言ってるか分からなくて、だから自分事として考えるのをやめてる部分もあるのかもしれない。

A:ははは。男性学の本(『トランス男性による トランスジェンダー男性学』)を書いてるのに、世間の大半の男性たちとは違い過ぎるのかもね。


B:男性の生き方が狭すぎるのも、私は不思議なんだよね。「男性がホモフォビア抱えてる」っていうじゃん?

A:うんうん。

B:でもトランスの人って性別変えてるから、自分の性別がごちゃごちゃになってる時点で性的指向の性別へのこだわりが減ってる気がするし、だから異性愛者じゃない人も多い。ホモフォビアの存在もそんなに感じないな。

A:それはあるね!トランスの人って異性愛じゃない人多いし、それってあなたの言うように、性別の壁がいったんぶっ壊れてるからなんだよね。

B:シスの人が「愛は地球を救う」とか言ってるけど、その「愛」ってめちゃくちゃ狭くて笑っちゃうよね。窮屈そう。人の性別がどうとか、性器の形がどうとか、戸籍がどうとか、そんなことで愛を狭くして、何してんだろう。

A:ねぇ。


B:シスの人たちがルール作ってるのに、なんで自分たちが窮屈になるルール作ってんだろ。

A:そうだよね。わたしはアセク的だからってのもあって、特定の性別の人としか好きにならないって意味わかんないんだよね。そのぶん、私たちは、自分たちサイドが性別の壁を超えちゃってて、意外と超えられるもんだなって分かってるから、他者の好きとか嫌いとかに、いちいち性別の要素を重要視しない人が多そう。性器の話もね~。変わるし色々だもんね。

B:シスジェンダーの人たちの身体イメージが貧弱だから…。


A:それはマジでそう!ペニスがあるとか、ないとか、みんな白黒でイメージしてるけど、ペニスだって色々じゃない。

B:なんかトランス女性の「ペニスのある身体」っていうイメージが画一的なの、男性たちがペニスを屈強なものとして位置づけるあまり、そうじゃないペニスを見ないものにしてきたっていう八つ当たりも混じってると思うよ。

A:それはそう思う。トランスの人で、睾丸抜いたり、女ホルしたりしてると、ペニス自体もどんどん収縮していくしね、機能も失っていくし、なんか「雄々しい」ペニスとは似ても似つかぬ可愛い突起になるんだよ。

B:知ってる(笑)

A:さすがトラニーチェイサーだ。でもさ、わたしは知ってるのよ。昔は男の公衆浴場に入ってたから。シスの男性のペニスだって、いろいろなんだよ!!!!

B:それも知ってる(笑)、風呂大好きだから。

A:そうだった!あなたも男湯に詳しいんだった。いるよね、肥満がちな男性とか、ペニスが股間にめりこんで、見えなくなってる人とかさ。SRSしたのかと思うよ。

B:ははは(笑)

A:ひどいMtFジョークが出ちゃったね。


B:なんか、身体って言うときに、痩せてる・太ってる、老いてる、みたいなバリエーションが考慮されてないよね。実際にはそんなんじゃないのに。

A:それも思う。「男性身体」ってイメージされてるの、中肉中背の、“肌色”っぽい人で、ペニスがばきばきなんでしょ。

B:ははは(笑)。ひどい偏見だ。でもそういう偏見を流布してきたのがシスジェンダー社会だから。


A:意味わからないよ。そもそも「心は女で、身体は男」とか、意味わかんないイメージでしかトランスを理解できないのもダメだし、そこでいう「男の身体」っていうのも、実際にはシスジェンダーの男の人たちの身体のバリエーションっていうか、多様性?っていうの全然無視してるもんね。ペニス、ペニス、ペニス…。馬鹿みたい。なんなら事故や病気でペニスがないシス男性もいるでしょ。

B:トランスジェンダーのことを問うときにシスジェンダーもまた問われているという視点が失われている。

A:急に哲学的になった!

B:いつも哲学的だよ。


A:シスも問われてるって言うのはどういうこと?

B:誰しも性別から逃れられていないのだから。

A:(かっこいい…)。

B:性別から逃れたいのだけど、思うに私は性別がなくても、私は今のような身体のフォルム、形がいいな。

A:はいはい。なるほどね。わたしも別に女性になりたいとかはなかったけど、結果的にホルモンしたりして、今の身体のフォルムにはとても満足してる。シスの人って、どんな感じなんだろうね?身体に勝手に性別の意味づけをされて、ずっとそれで生きてくんでしょ?


B:シスの人たちってあんまり性別のこと考えてないのでは。性別役割とか規範とかについては考えてるけど、性別そのものは疑ってないのかな…?

A:あー、確かに。なんか、男性と女性がいて、自分が男性か女性かどっちかで…、ていうのはそもそも視野に入ってなさそう。考えてもいいことだって、思ってない気がする。

B:あー、それは私もそうだったな。最初は「性別について考えていい」ってことを知らないから。


A:そうね、確かにわたしもなんでこんなに生きづらいんだろ、辛いんだろ、って思って、性別が辛い原因だってことまでは分かってたけど、性別について考えるとか、そういう発想はなかったわ。絶対的に、事実だと思ってた。自分が「男」だってのは。

B:ふーーーん。私は自分が女だってことを事実として捉えてなかったかも。女をやらなきゃいけないとは思ってたけど、そこにフィックス(固定)されてなかったのかな。

A:そうか。私は、他の人も自分の性別は嫌だけど、でも「男」や「女」である以上は、そこは疑っちゃいけないっていう「事実」をきちんと受け入れられてるんだろうと思ってた。私はぐずぐずしてて、皆に遅れたのかなみたいな。ごめん分かりづらいね。


B:うん、分かるよ。今後VR(バーチャルリアリティ)が発達したら、シスやトランスも関係なく、ほかの性別体験が気軽にできたらいいなとは思うよ。

A:確かにそれは面白そう。みんな、自分の性別について疑問に思わなすぎ。だから、バーチャル空間で「どっちの性別を選びますか?」って真剣に選択肢を与えられたら、鈍感で気の毒なシスの人たちも、自分の性自認や人生とか、性別について向き合うチャンスが与えられるかも。

B:SNSやRPGの設定で、性別を選べるのはすでに可能なのだけど、それでかき乱されてる感じではなさそう。よく分からない性別の世界を引き受けながら、シスの人たちはずーっと変えずに生きていくんだね。

A:うんうん。謎だよね。シスの人たちは自分の性別って何なんだろうとか、なんで性別をやんなきゃいけないんだろうとか、なんで性別によってこんなに世界が分かれないといけないのかとか、考えないのかね。謎過ぎる、マジ悲劇。

B:分からない。シスジェンダーのことは不思議だと思うけど、そう言ってる自分がトランスジェンダーとして固定化されるのもしんどいとは思う。ていうか私は性別の話自体を無化するためにトランスしてるから。

A:あーー、そうだよね、あきらさんは。

B:ごめん脱線しちゃったね。


A:いやいや、そんなことないよ。だから性別移行をしないシスの人たちにとって、性別なんて「無い」に等しいんじゃない?

B:そのくせ越境するトランスに対しては厳しくて、急に性別が「出現」するんでしょ?意味わからないね。

A:それそれ!それ!シスの人たちは、なんか平然と自分の性別をやってるし、性別について真面目に考えてるわけでもないし、なのに、トランスが出てきたら急にいじめてくるよね。

B:なんで自分のことはいじめられないって思うんだろう。


A:分かってないんだと思うよ。自分たちが世界のルールを作ってて、性別がとっても重要視される世界のルールを作ってるのに、自分たちがどんなルールを作ってるのか、知らないんだと思う。

B:「埋没した世界」をシスの人々が生きてるってことね。

A:そうそう、シスの人たちは「埋没」してるし、性別だらけの世界を見えないところに隠してる。で、自分たちがどんな世界を生きてるのか、見てない。


B:トランス差別的な人が、「女だと主張したら男が女湯に入ってくる」みたいに言ってるあれ、そんなことできないのトランスの人が一番知ってると思うけど。

A:そうだね。謎だよね。なんか、不思議。公衆浴場にせよ、公衆浴場でないところにせよ、何となく他人の性別を分類したりとか、それで性別でトイレとかお風呂とか、分けることもあるけど、シスの人たちは自分たちがどんな風に社会を設計したのか、忘れちゃったのかな?

B:トランスの人たちが生活してるってことを忘れてるんだよね、結局。露骨に性別分けされてるスペースの利用なんて、トランジションの最後のステップだから。ふだん道を歩いてて男性として見なされたら警戒されるとか、公共交通機関でどの性別の人の横に座るとか、あちこちで性別ジャッジが行われてて、他のありとあらゆる場面で、自分がどんな性別として見なされているか、トランスの人たちは終始認知せざるを得ない状況にいるわけじゃん?

A:うんうん。

B:それでなんか、「公衆浴場!」くらいしか言うことがないのは、どうしてそんなに鈍いの?

A:まさに悲劇だね。性別を変える人がいるって聞いてさ、最初にトイレと公衆浴場を思い浮かべるんでしょ。馬鹿なのかな?


B:だってさ、実際にその人に会ってなくても、メールをもらった相手がどっちの性別なのかとか、自然に考えてる人も多いわけ。日常のそんなしょうもない場面にも性別がつきまとってるのに、そういうことにも気づいてないわけ?

A:ね、びっくりするよね。私たちが性別を変えるっていうのは、そういう日常のしょうもないところから、ありとあらゆる生活の場所でジャッジされる、その性別を変えるんだよね。性別はトイレやお風呂だけのものじゃないって、私たちは知ってるけど、シスの人たちは頭が悪いから知らないんだよね。で、トイレや風呂。気の毒に…。

B:なんかすごい上から目線になってしまうけど、フェミニズムも男性学も、トランスジェンダーからヒントをもらえばいいと思う。

A:いや、いいんじゃない?今日くらいは。上から目線でも。

B:ずっと上から目線で無きものにされてるからなー。


A:これは、昔ブログを読んでたトランス女性さんが言ってたんだけど、トランス女性が女性的な生活を手に入れるために、女性的な服装をしたりとか、話し方を習得したりするのに対して、ネガティブな感情を持つ人って多いじゃん?それをなんでシスの人たちが怖がるかっていうと、それは自分たちの真似をされているのを見るようで怖がってるんだって、そのトランスの人は言ってたの。

B:それもまた不思議だな!だって、まだ性別分けされてない子どもが大人の男女の真似をするのは受け入れているのに、トランスがやったらダメなの?同じじゃん?

A:いや、だから子どもも、大人の真似をしてるわけじゃないって、あいつら信じてるんだと思うよ。

B:はーー!子どもに性別が付与されて、男女になっていくっていう光景を見て見ぬふりをしてるってこと?そういうよく分からない仕分けをしてるんですよね、あなたたちは。

A:実際そうだと思うよ。子どもには生まれたときから自然に性別が備わっていて、女の子の髪は自然と長く伸びるけど、男の子の髪は自然と短くなるって、シスの人たちは信じてそう。

B:すごい不自然。


A:ふふ(笑)。でもそれくらい、性別っていうものを「与えてる」とか「やらせてる」っていう自覚、ないよね。シスの人たち。すごいと思う。自己欺瞞!

B:はぁ……。

A:だから、大人のトランスが急に自分たちの真似をし始めると・・

B:秩序を壊してるように見えるの?はなからおかしい秩序なんだよ。


A:そうだよ。そうそう。自分たちが変なことをしてるっていうのをトランスから突き付けられるのが怖いんだと思う。ありとあらゆるところで性別っていうのが意味を持ってて、その性別ってものに、いろんなジェンダー規範がくっついてしまってて、私たちが他人の性別をめちゃめちゃ気にする変な生き物だっていう、皆が「見て見ぬふり」をしてる事実を掘り出して、「埋没した世界」を暴露しちゃうから、怖いんだと思うよ

B:おもろいねぇ…。

A:いや、ほんと、変だよね。


B:なんかさ、海外旅行とか行ったりすると、他の国には他の国の男女の規範があって驚いたりするけど、よくわからない男女分けがなされてる事実そのものには驚かないのかな。

A:確かに。気になるね。てかさっきの話に戻るんだけど、シスの人たちがトランスの人たちの存在に驚いたり、トランスの人たちをいじめたりするのって、自分たちがとんでもなく性別ってのを気にするし、子どもたちにも問答無用で性別をやらせるっていうめっちゃ虐待的なことをしてるっていう、そういう犯罪から目を背けたいからだと思うんだよ。

B:すごい。世界への憎しみあふれる、政治的ノンバイナリーのあかりさんが出たね…。


A:あ、ごめん!憎しみが出ちゃった。シスの人たち中心の社会が、トランスジェンダーをいないことにしている、っていうのは、確かにそうだとは思うんだけど、個人的には、シスの人たちはトランスの人たちがいるってことは知ってて、でも、その存在を認めちゃったら、自分たちが続けてきた性別についての縛りゲームが馬鹿みたいなゲームだってことを認めないといけなくなるから、それが辛くて、本能的にトランスをいじめるんだと思う。マジで気の毒だよね。

B:その話、男性たちのなかにほんとはホモセクシュアルな欲望があるんだけど、ホモフォビアで押さえつけて、ホモソーシャルを保とうとしてる、みたいな話と似てるね。

A:ごめん、ちょっと難しかったけど、たぶんそう。シスの人たちも心のなかでは、性別を生まれたときから運命づけられているのがしんどいんだと思う。

B:なんでトランジションしないの?

A:わかる。


B:最初、(トランジションは)辛いこともあるし実際辛かったけど、必要ならトランジションしたら幸せになるかもしれないのに。

A:不思議だよね。自分で選んでもない性別を勝手に戸籍に書かれてさ、男だからって男として生きろとか、女だから女として生きろとか、自我もないのに押し付けられて、みんなほんとは嫌なんでしょ?やめたらいいのにさ、実際にやめてるトランスがいたら虐めるじゃん。

B:嫉妬?

A:だと思うよ。トランスフォビアはシスの嫉妬なの。でも、シスの人たちは可哀そうなことに自分の中にそういう欲求があって、嫉妬してる事実に気づいてない。


B:どっかで読んだけど、トランスジェンダーの子どもがトランジションしたのを見て、その親もジェンダーに関して開放的になった、みたいなのを読んだ記憶があるわ。

A:はいはい。それは普通にありそう。

B:目のまえで激しいトランジションしてる人を見たらさ、それの100分の1くらいは自分もジェンダーの逸脱を経験してもいいって思うんじゃない?

A:やっぱり、シスの人たちはトランスから学ぶ必要がありそうだね。


B:今言えるのは、トランスジェンダーであることはそんなに無茶苦茶悪いことであるわけではないかな、ってこと。あなたと会えたし。

A:ふふ。急に惚気てきたね。わたしもあなたと会えてよかったよ。ずっと、シスの人たちがやってる変な性別ゲームが意味不明で、ずっと観察してきたけどさ、あきらさんが初めてだよ、わたしの言うこと伝わった!って思ったの。

B:私もそうだよ。自分がこんなにトランスっぽいこと喋るようになったってことがびっくりなんだけど。

A:そうだよね、昔はトランスジェンダーとしての視点とかそんなに重視したくない、みたいな、もっと男の話だけしていたいって感じだったもんね。

B:でもなんか、シスのバリエーションが思ったより狭い感じがしたから、開拓するしかなくなっちゃった。他にしゃべりたいことある?


A:うーん、もう大体はしゃべったかな!最後になってようやく、あなたの言ってたことの意味が分かってきた。トランスジェンダーが問われてるとき、シスジェンダーが問われてるってやつ。

B:うん、シスも道づれ

A:そうね。トランスの女性に差別的な人がさ、「女の定義を教えてください!」とかSNSで絡んでるの見るけど、あれは要するに、シスの人こそが問われてるんだよね実際は。

B:すごいラディカルフェミニズムっぽいね。女の定義を問い続けてるんでしょ。


A:たぶんそうかな(笑)。世界には性別が満ち満ちてて、女とか男とかで、生きていく運命がこんなに変わってしまって、子どもにも無条件で女や男をやらせててさ、自分たちがやってるそういう不合理な押し付け?っていうか、縛りゲームが何をしてるの?っていう問いが、シスの側に返ってきてるはずじゃん。「女の定義とは?」って。可哀そうなことに自分では気づいてなさそうだけど。ごめん、この話さっきしたわ。

B:言いたいこと言ってていいんちゃう?この辺で終わりにしようか?

A:そうだね。以上、シスジェンダーの悲劇でした~~!

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