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あかり&あきら対談「ホルモン治療って何のため?」

トランスジェンダーの人が性別への違和感を軽減させ、その後は体調維持のために使うことのある性ホルモンについて、話し合います。


A:五月あかり(出生時に男性を割り当てられたが、現在は女性に埋もれて生きている。トランスジェンダー) 

B:周司あきら(出生時に女性を割り当てられたが、現在は男性をやっている。トランス男性)



【男性ホルモンが好き!】


B;私は男性ホルモンを愛している。

A:急にどうしたの?わたしは別に、女性ホルモン愛してはないよ。

B:トランスジェンダーにまつわる医療で、私が真っ先に頭に浮かぶし、すごく大事だと思うのはホルモン療法だから。

A:そうか、私からしたら、ホルモンは足りないから入れてるって感じだけど。

B:あかりさんって食事のことを養分摂取だと思ってる?そういうタイプならしゃあないね。

A:思ってないよ!食事は大事だよ。わたし盛り付けとかきれいじゃん!?

B:そうだったね(笑)。男ホルに関しては他の人も言ってるけど、気分がウェイウェイウェイってなるのよ。

A:うんうん。

B:単にトランスだから自認している性別のホルモンを摂取しているってわけじゃなくて、もちろん男性ホルモンとの相性も関係あるんだけど、人生がホルモンのおかげで豊かになってるって感じするもん。

A:えぇぇー。そうなんだ。ホルモンのおかげで人生が良くなったとか、思ったことないわ。ホルモン酔いで気持ち悪くなるくらいかなぁ。


B:まぁ、私の場合は男性ホルモンに限る、って話。女ホルは血と涙の結晶だと思ってるよ。比喩ではなく、生理の血と、女性であることの涙と。それが女ホルでしたから。

A:あきらさんは、昔の自分の身体には女ホルがあったーって、よく言ってるもんね。

B:そうだっけ?

A:言ってるよ。前の「身体の性ってなんだろう」対談かな、でも言ってた気がするし。あれでしょ?今わたしが女ホル打ってると、かつての自分の身体みたいになってるって、思うんでしょ?

B:そうだったっけな。女ホルがあるとかないとかより、「男ホルがある!」っていうのが強いの。そもそも女性ホルモンは私関心がなかったから、エストロゲンとプロゲステロン、って主に二種類ありますって説明も、MtF系の身体のことを知りだしてから、そういえば自分もそうだったんだって、気づいた。

A:そうかぁ。

B:こんなに二種類の女ホルに違いあったんだ、って。

A:そうかそうか。でもわたしは男だった時は、「男ホルあります!」って感じ、なかったけどね。


B:逆に今は「女ホルあります!」とか感じるの?

A:ぜんぜん。気持ち悪いときと、ホットフラッシュで女ホルが足りてないなってときは、「女ホル~頼むよ~」って気持ちになる。

B:ふふ(笑)。なんか、恩恵ゼロやん。迷惑なときだけ存在に気づくっていう。もちろんポジティブな身体の変化としては、感じるところかもしれないけど。でもそれは、例えば胸が膨らんだことに対する評価であって、「女ホルありがとう!」って感じとは違いそう。

A:そうだね。女ホルに迷惑被ってるときは、女ホルのこと考えるけど、ポジティブな方で、女ホルの恩恵とか、考えないよね。むしろわたしが気になるのはあなたの方よ。

B:なに?

A:男ホルありがとう!の意味が分かんないもん。

B:鬱っぽさが消えて、気分が日常的に高揚していて、生きていることが幸せって感じるのは男ホルのおかげだと思ってる。

A:…

B:なんか麻薬みたいだね。

A:…

B:他のトランスの人はそうじゃないのかな?でもそういう語り聞いたことあるからさ。

A:いやぁ。文字だけ見たら完全にドラッグだよ。

B:ははは(笑)


A:真面目な話していい?確かに、男ホルで、鬱っぽさがなくなるとか、エネルギーが溢れるとか、あるのかもしれないけどさぁ…

B:MtF系には関係ないね。

A:うんうん。わたしも金玉ないしね。それでね、男ホルのダイレクトの影響だけなの?それって。やっぱりさ、やりたかった治療を始められた喜びとか、身体が変わることの喜びとかで、楽しくなったりとか、そういう間接的なやつじゃないの?

B:あなたの言いたいことわかるよ。そういう社会的な役割ももちろんあるだろうけど、それとは別に、空腹なときに胃に何か入れたら感謝したくなるようなそういう感じで、空っぽの身体に必要な栄養が行き届いたようなエネルギー発するのが男ホルの影響だよ。

A:はぁ。

B:わたしは男ホルラバー(lover)だから、しょうがないよね。

A:そうなんだ…。全然わかんないよ。でも、もはや別人じゃん。


B:はは。私は女ホル優位だったころ(=男性ホルモン治療を開始する前)、泣き虫だったわけ。情緒不安定で、ほっとくと毎日涙が出るような状況で。身近な友人とかも、私が泣き虫なんだと解釈してただろうけど、あれは女ホルのせいだと今は思いますね。今なんて泣きたくても泣けないよ。

A:へぇ。

B:男性が泣かないのは男らしさを気にしてるからだ、っていうのは一理ある説明だけど、男性ホルモンをやると泣きづらくなるのはあるなって実感した。


A:そっかぁ。わたしも確かに女ホル始めてから、急に涙出たり悲しくなったりすることは増えたかもなぁ。でも、女ホルやりだしたのが、社会的には結構性別移行した後だったから、一番つらい時を乗り越えてから女ホルしたんだよね。だから実際は、女ホルする前の方がよく泣いてたかなぁ。

B:あぁ、なるほどね。なるほど。そこは私とは違うね。

A:つまりさ、わたしはすっごく鬱だった時期から、女ホルを始めて、確かになんか涙もろくなったとはいえ、「すごい鬱」の時期はなくなったわけ。

B:めでたいね。そりゃあね、単に女ホルがある地獄より、性別違和を突きつけられる地獄の方が巨大だもんな。

A:ほんとそう。一番つらい時は、女ホルなしで乗り越えちゃったんだよね。


【ホルモン治療で鬱が軽減するって?】


A:でさ、最近ニュースとかで見たんだけど、あれよ。「トランスの人がホルモン治療をすると、鬱の割合が下がりました」みたいな研究データ、どう思う?

B:それはどの時期を調査するかによって全然違う。もっと詳しく聞かせてもらわないと全然分からないよ。

A:うん。


B:私も男ホル始めて3カ月のころは、すごい鬱だったよ。知り合いが心配して、精神科とか心療内科にも連れて行かれた。路上で涙が止まらなくなって。でも、半年以上経過してからは男ホルハッピーだよ。だから、時期によるわけ。男ホルと女ホルが体内でせめぎ合ってるときに、鬱がなくなりましたか?とか、おかしいよ。そんなの体調悪いよ。

A:急にしゃべりだした。わたしも、ああいう研究は「なんかなー」って思ってる。


B:なんかさ、都合よくトランスの生き方をデータに当てはめてるからさ、データの正しさで幸・不幸を定めちゃってる感じ?

A:うんうん。あなたの言うように、ホルモンを性別移行のどの段階で始めたのかとか、初めてからどれくらい経ってから、どれくらいホルモンの相性が良かった人を調査してるのかとか、気になるよね。

B:元からメンタル悪かったり、身体がホルモン受け付けない体質の人に、ホルモン治療やったりしたら、体調が悪化する可能性があって、トータルの状況がより悪くなってる可能性もあるじゃんか。それはさ、単に性別違和だけの問題じゃない。

A:わたしもそう思う。なんていうか、性別違和は辛いし、鬱にもなると思うんだけど、まずもってホルモンで直接に緩和される性別違和ってどれくらいあんのか、というのが気になるし、トランスの人が鬱になってるのって、別に性別違和だけのせいじゃないというか、生きていけないからじゃん。


B:あかりさんの話を聞いてて、問題点が二つくらい浮き上がった気がする。一つ目は、ホルモン治療による変化によって社会的な扱われ方が変化して、社会的な性別移行が進みやすくなったとしましょう。それはホルモンによって身体の変化が起こったことによる幸せなのか、それとも周囲の人が本人の性別通りに扱っていなかったけれども、それが叶うようになったことによる幸せなのか。これが一つ目。

A:なるほど。二つ目は?


B:二つ目は、トランスジェンダーの人という個人のなかから性別違和だけを切り取ることは本来できないので、ホルモンによって性別違和が減ったから生きやすくなった、というストーリーが正しいとは限らない。

B:おっしゃる通りだわ。わたしも頭が整理されてきた。ああいう研究をやってる人とか、そういう研究を紹介して、ホルモン治療はトランスの人のためになるんですよ、って言ってる人たちは、善意で言ってるんだと思うんだけど、なんかピントずれてる感じする。

B:ピントがずれてる、っていうのはしっくりくるわ。


A:そういう研究者とかのストーリーって、あなたが言ってたよりも、ずっと社会的な側面を無視してる気がしたの。「性別違和→鬱になる→ホルモンする→性別違和減る→鬱が減る」みたいな。でも実際には、ホルモンと合わせて、社会的にも扱われ方が変わったりするし、それで鬱が改善する方向になることもあるだろうし、そもそもホルモンを始めること自体が嬉しいっていう人もいると思うんだよね。


B:うんうん。他のストーリーで言うと、「シスジェンダーの発育が正しいもの」って誰しもが認識している現状だと、「身体に手を加えることはいけないことだ」っていう認識に繋がるじゃない。だから、ホルモン治療を始めたっていうのは、そのトランスの人にとっては幸せのはずなのに、「間違ったものに手を下した」っていう認識になってしまう人もいそう。だから、幸せになるはずなのにそれが世間の常識とずれてるから、本人も幸せになれない人もいそう。

A:なるほどねぇ。

B:ホルモン治療を始めて早い段階で、(男ホル投与で)生理が止まるとか(女ホル投与で)ペニスが委縮するとか、なると思うけど、「人間は生殖するもの」って信じてきた人からすると、自分が欠陥品になったんだ、自分の能力が減ったんだ、て思う人もいると思う。シス的な正しい道から外れたんだって。それは自分の性別違和がなくなった、という風にだけ理解するには、世間が厳しすぎるかも。

A:シスの人たちの、身体についての常識とか思い込みは、トランスの人にも内面化されるもんね。わたしは全然、欠陥品になった感じしなかったけどね。



【ホルモン前後の孤独感】


B:あかりさん自身はどんな風に感じてたの?自分の変化について。でもあれか、すでにホルモン始める前に性別変わり始めちゃってたら、ホルモンそのものによる変化とか少ないのかな。

A:そうだねぇ。わたし的には課題が2つあって、まずは男性をやめること。これは人生の目標だったの。それは、SRSして叶ったかなって思ってる。もっと前から、女ホルをしない状態で、女性的な生活にはなっていたけど、その総仕上げとして、男ホルを作る臓器とかをまとめておさらばしてね、総仕上げって感じ。

B:それは愉快なことだね。


A:でしょ。それで、2つ目の課題は、これはなりゆきだったんだけど、SRSして女ホルを始めると、どんどん身体が自分のものになっていたの。これは、自分の身体が完成に近づく感じだったよ。だからどの段階でも、性別移行のプロセスで、自分の身体が欠陥品になったって思ったことはなかったかなぁ。


B:なんかさ、私は「男性になる」っていう意識よりも「トランスジェンダーになってしまう」っていう恐怖が先にあったかもしれない。すごく孤独な境遇に追いやられるのかなとか。

A:へぇえ。

B:結果、そんなに気にならなくなったからよかったけど。

A:そうなんだ、わたしそれ無かったかも…。

B:ふーん。


A:むしろ、自分のことを昔はシス男性だって信じようとしてきて、でもシス男性なのにこんなに性別が辛いなんてシス男性のなかではわたしだけなんだーーっていう孤独が強かったから。

B:なるほど、そっちか。

A:そう。だから自分はもう否定できないくらいトランスジェンダーなんだ、もうこれは否定できないんだ、自分は女性のアイデンティティはないけど、シス男性ではなかったし、それになるのは無理だったんだーっていうのは、むしろ仲間が増える感じがしたよ。

B:まじ!?そっかそっかそっか。性別に適合できないシス男性で居続ける方が、孤独なことだったんだ。

A:そうだよ。辛かったよ。だからトランスだって認められた後、精神的な性別移行ね、これの後は、すっごいYoutubeとか観まくってた。

B:気づいてからか、そうか。


A:だから私は、ホルモンを始めることそのものの不安とかはなかったかなぁ。「親からもらった身体」とかの発想もなかったし、トランスになってしまう恐怖?みたいのもなかったかも。ホルモンを始めた時点で、性別移行がかなり進んでたってのは大きいかな。だからやっぱり、さっきの研究の話だけど、ホルモン始める前後で鬱の傾向とか比較しても、仕方ない気がするんだよね。始めた時点でのみんなの状況が違い過ぎるからさ。

B:確かに、私とあなたでも全然違うね。

A:ねぇ。

B:せめて、身体への肯定感に変化があったかとか、社会的な扱われ方に変化があって、それによって変わったかとか、それなら分かるかも。


A:そうだね。それは少なくとも聞いて欲しいよね。やっぱり気になるのはさ、トランスの人が性別違和で~、鬱になって~、だからホルモンして~、鬱が改善して~、っていうストーリーってさ、私たちがホルモンする理由と関係なくない?

B:関係ない!

A:だよね。鬱だからホルモンしてるんじゃないもん。鬱なら鬱の治療した方がいいと思う。

B:確かに!だからさ、なんか昔の(性同一性障害の)診断基準だとさ、精神が不安定な奴は治療に進めませんみたいな項目あったやろ。

A:あった。ガイドラインでしょ。それも変だよね。ホルモンが開始できないからこそ性別移行できないとか性別違和辛いとか、それが理由で鬱になってる人いっぱいいるのに、鬱の人はホルモンできません、っていうのはおかしいよね。でもだからといって、鬱の治療のためにホルモンをしてるわけではないんだよなー。


【男性ホルモンと女性ホルモンの違い】


B:うん。あとやっぱ男ホルと女ホルの違いもあると思うよ。一般にさ、女ホルの方が鬱っぽくなるじゃん。それはシスの女性にとってもそういうものでさ。例えばシス女性が女ホルのせいで鬱気味だからといって、その人から女ホルを抜いたり男ホルを注入したりはしないじゃんか。だからトランス女性がホルモンで鬱っぽくなったからといって、その人から女ホルを取り上げたり男ホルを打ったりするのは、正しい治療とは言えないんじゃないかな。

A:はは。

B:それはもう、そういう体質だったりするんだよ。シス女だろうとトラ女だろうと、全然鬱になんかなりません、っていう元気な人はうじゃうじゃいるし。性ホルモンは、シスの男女にもあるんだから、それはトランスの話だけでもなかったりする。


A:そうなんだよねぇ。さっきも言ったみたいに、私たちがホルモンするのは、鬱の治療を目的としているわけじゃない。もし、鬱の治療が目的なら、ホルモンで鬱っぽくなってる人はそのホルモンをやめるべきだけど、別に鬱の治療が目的じゃないから、鬱っぽくなったからといって、ホルモンを取り上げるのは間違ってる。

B:だったら、デッドネーミング(本人の望まない、昔の名前で呼ぶこと)やめろっていう方が効果的かもしれないよね。トランスの人の鬱っぽさを減らすには。

A:そうだね。絶対そっちだよね。だからさ、トランスの人にホルモンしたらこんなに鬱が改善されました!みたいな研究みせられても、ピントずれてるなぁってなるね。改善されてなくても…

B:改善されてなくても、必要なトランスの人にはホルモンやってください。


A:そうなんだよ。それに、改善されてる人についてもやっぱり同じでさ、例えばホルモンによって見た目とか声とか変わってさ、自分の性別で回りの人が認識してくれたり、生活を移行できたりして、それで鬱っぽさがなくなる人って、いると思うんだけど、それってホルモンが鬱を改善させたんじゃなくて、その人の生活が変わったからなんだよね。

B:ホルモンそのものの効果と、生活環境全般の変化と、ちょっと水準が違う。あの、最初の発言に戻ると、私はどっちの効果も感じているからだよね、男ホル好きなのは。体調もいいし、生活も変わったし。

A:なるほどね。


B:よほど体調不良にならない限りは、死ぬまで、あるいはシス男性のホルモンが枯渇するくらいの年齢までは(男性ホルモン投与を)続けると思うし。私が体調不良になったとしても、男ホルから得られた効果が失われるくらいなら、男ホルと共に身体を滅ぼす方を選ぶかもしれないな。

A:へぇ。

B:好きなんだから離さないよ!

A:好きだね、男ホル。わたし別に、女ホルと心中したくはないな。確かにおっぱいの張りとかなくなるの嫌だから、女ホル続けたいけど、自分的にはホルモン打たないと死ぬからっていう消極的な理由で続けてる。てかさ、わたし分かったんだけど。

B:なになに?


【ホルモンと鬱の相関関係】


A:ホルモンと鬱の関係ね。3つくらいある気がするの。

B:おぉ。

A:一つ目は、ホルモンそのものが精神に与える影響ね。これはシスもトランスも同じで、今日の話を総合すると、男ホルは人をハイにする。女ホルは鬱っぽくするのかも。これはホルモンそのものと鬱の関係ね。

B:うん。


A:二つ目は、性別違和がなくなるっていう話。これはトランス限定。ホルモンで、身体が変わったり、あきらさんだったら腕の血管が出たりとか、こういう身体の変化で、ダイレクトに性別違和が減ると、結果として鬱もよくなりそう。

B:その性別違和っていうのは身体的な嫌悪感が減るとか、喜びがあるとかってこと?

A:そうだね。そういう身体の次元の違和感で限定での話ね。わたしも、お尻が丸くなってユーフォリアあったよ。これも前の身体に感じてた嫌な感じが減ったってこと。

B:うん。


A:最後の三つめは、めっちゃ社会的なやつで、ホルモンを始めたことで、身体も変わるかもしれなくて、そのおかげとかもあって、周囲の認識とか、扱われ方とかが変わって、自分らしい本当の性別で(?)、生きられるようになって、だから鬱が改善する!ってやつ。

B:うんうん。私は1~3どれもプラスに機能したって感じ。男ホルに関しては、鬱に対比させていえば躁っぽくなっている。慣れるとわりと平坦な感情になれるんだけど、自分がコントロールできない感じでそうなってるっていう危機感を覚えたことはある。

A:そうなんだ。


【これはホルモンのせいなのか】


B:なんかさ、シス男性向きの「男らしさ」を考えるときも、多少は男性ホルモンで自分を大きく見せちゃってるんじゃないかっていうのは考えてもいいと思うんだよね。ホルモン周期的に今は気分が上がってるんじゃないか、とか。

A:うんうん。

B:男性は生理周期みたいなの気にすることないじゃん。ホルモンのこととか。男性もそういう身体のホルモンの変化を経験してるはずだから、男性も考えられた方がいいと思うんだよね。それはトランス関係なくね。

A:そうだね。男性は自分の身体とうまく付き合えてないことが多くて、身体に悩まされることなんてないって、信じたい人が多いよね。


B:例えば自分の股間が反応してるのは、男性ホルモンの作用によるものなのか、恋愛感情か何かに基づくものなのか、みんな区別できるはずなんだよね。一応、私的には区別できるんだけど。

A:えぇ、どうなんだろう。自分で区別がつけられるかどうかってこと?

B:うんうん。これはトランス男性もそうだけど。今自分のホルモンの状況がどういうことになってるかっていうのに私は意識的なんだと思う。そうじゃないと、なんで自分にこういう身体の変化が起きてるのかとか、こういう気持ちになるのかとか、分析しないで終わっちゃうでしょ。

A:うん。

B:私は女ホルには無頓着だったけど、男ホルには敏感なのかもしれない。


A:へぇぇ。面白いね。でもそれは危険なことでもありそう。

B:何が?

A:例えばだけど、いま自分が攻撃的な感情なのは男ホルが優位だからだな、みたいな風に自分を納得したり正当化したりするのって、危なくない?

B:なんでか分かんないな。例えばさ、別の例でいうと、今日は気温が40℃あるから思考が働かないんだ、って解釈できるのは便利じゃない?もちろんいつも正しいとは限らなくて、原因を推測する時に間違ってる可能性ももちろんある。

A:いやぁ、そうなんだけど。

B:けっこう女性はそういう管理の仕方してると思うけど。シス女の人とか生理のアプリとか使ってて、今日は何週目だからイライラしてもしょうがないとか、甘いもの食べたいときは我慢しないようにしようとか、やってるじゃん。そういう管理の仕方は、別に駄目とか危険とか思わないけど。

A:確かにねぇ。やっぱりじゃああれかな。身体の声を聴くとか、身体の波とか、ホルモンのバランスとかを知ったり、管理したりするのは全然いいことだと思う。

B:…けど?


A:…だけど、やっぱり「あれもこれもホルモンのせいだね」ってシス男性たちが言ってきた歴史あるじゃん。

B:なるほど、馬鹿なシス男性はいる。ペニス原罪論(ペニスがあるせいで男性は生まれつき悪者である、といった極端な考え)的な。

A:そうそう。そういうのも含めて。男性は、ペニスと金玉がある以上は、定期的に女性を襲いたくなるものです、みたいなゴミ発想を正当化するのに使われたら嫌だなって思っただけ。

B:私そんな馬鹿どもとは同じに思えないけど。

A:そうだね。ほんとは全然違うよね。

B:客観視するための材料だとしか思ってない。でも確実にある。ホルモンによる身体の波。

A:うんうん。


B:なんかさ、それってさ、ペニス原罪論的な人たちは思考を停止するために使ってるじゃんか。

A:うん。そうだね。

B:判断材料の一つとしてではなく、ね。それでさ、逆に、身体を無視して「男らしさを考えよう」って言ってる人は、身体を無視してる気がするから。大事なのはどちらもでしょう。

A:そうだね。男性らしさとか男性性とか考えるときに、身体のことを無視するのはいけないはずだよね。そうして身体を見てこなかったこと、無視してきたことも、また悪い男性性の歴史のひとつなんだろうし。


B:なんかさ、そういう悪しき男性ってのは、女性に対しては急に身体が登場して「イライラするのは生理のせいだろ」とか「妊娠出産する身体だから仕事に就かせない」とか言うくせに、一方で自分の身体については無視して、差別のために都合よく使い分けてるんだろう。ダブルスタンダードじゃん。ごめん、つまんない話になっちゃった。

A:いや、つまらないけどその通りだと思う。でも、もしわたしがシスの男性で、リベラル男子で、男らしさについて考えよう、とか言ってるタイプだったら、

B:…想像つかない?

A:うん、想像つかない。男性性とか男性的な振る舞いとかの原因のひとつに、男性ホルモンの影響がちょっとでもあるのかもしれない、みたいなのは、怖くて口にできない。

B:え!?なにが?なんで?


A:だってそれは、さっきから言ってるように、差別の正当化に聞こえそうだもん。

B:それはさ、自分がまるで男性の代表であるかのように語っていることが問題であって、自分のストーリーを分析する分には全く問題ないと思う。

A:なるほどね、そこか。

B:使い方だよ。

A:はいはい、そうだよね。


【ホルモンと性欲の変化】


B:ホルモンによる性欲の質感の違いについて話してもいい?

A:いいよ。

B:あかりさん的には変化がないだろうけど…

A:ないね。性欲自体がゼロからゼロだから。でも、いいよ喋って!

B:女ホルと男ホルで、性欲の質に変化があった。性欲の強さというよりは、質。

A:ほぇぇ。


B:例えば紙を想像して欲しい。表面がでこぼこしてる紙と、つるっつるでさらーっと触れるシルクのような紙があるとして、そこにインクを垂らすの。インクを垂らすと、ざらざらした紙と、つるつるした紙では、インクの広がり方が違うんじゃないかって思うわけ。つるつるした紙は、流れるんじゃなくてインクをはじくんじゃないか。性欲って一言で言うけどこんな感じで質が違うんじゃないかって。これは性欲の強弱じゃなくて、質なのよ。

A:ほえぇぇ。

B:紙の例で言うと、ざらざらした紙にインクを流しているのが女ホルだとすると、そこにインクが留まっていて、ばーっと広がりはしないけど、うまくそこに留まっている。つるつるした紙のインクを垂らすと、しゅっと通り抜ける感じ。

A:それが男ホル?

B:なんかイメージね。

A:うんうん。でも面白いよ。

B:つるつるした紙は、分かりやすい男ホルの性欲の通り抜け。それと、あるのかないのかわらかないけど、確実にある女ホルの性欲。


A:ふぅーん。わたしがよく見るMtFのYoutuberさんとかも、性欲の質の違いについては話しているよ。みんなね、男ホル優位だったころは、一発抜きたい!って感じだったみたいだけど、女ホル優位になってからは、誰かと繋がりたい、っていう風になったってさ。

B:あぁ、わかる。

A:分かるんだ!


B:超わかる。あと「イク」って言葉とか、腰振るみたいな感覚、男ホルでしか生じてない。AV女優さんが「イクイク」って言ってるけど、あれは男ホルの感覚で男性の製作者が言わせてるんじゃないかって思う。女ホルでそんなに「イク」って感覚あるのかな。男性の文化から持ち込まれてるんじゃないかっていうフィクションぽさがある。そんなのなくても、女ホルには女ホルの気持ちよさがあるし。

A:ふーん。MtFさんでも言ってる人いるね。尖った山から一気に転落というか、飛び出すのが男ホル的な「イク」で、なだらかな山を登っていくのが、女ホル的な「イク」。ただし、山頂から落ちたりはしない、みたいな。


B:男ホルの「イク」は排便のすっきり感で、女ホルの「イク」は排尿のだらだら感。

A:…

B:どっちも、ある程度すっきりするでしょ。でも質が違うよね。

A:どっちも排せつじゃん(笑)

B:例えがいまいちだったか…?


A:でもふつうに気になるんだけど、性欲ってさ、セックスしたい欲求と、射精!発射!イク!みたいなのをしたいっていう排せつ的な欲求とさ、両方あるの?

B:どっちもあるんじゃない?両方兼ねて望むタイミングもあるだろうけど。

A:オナニーは後者だけ?

B:私の認識ではそうだけど、そうじゃない人はいるだろうね。他の人間の身体でオナニーしたいとか、他の人がいるところでオナニーしたい人もいるだろうし。ただ、その辺は女ホル男ホル関係ないのかも。でも私にとってはオナニー欲求は男ホルで主に生じてるかも。

A:へぇぇ。


B:男ホルで精子作られるから出さないと、っていうのは、シス男性も認識してるんじゃないかと思ってる。トランス男性だと、出す精子自体はないんだけど、なんか出さなきゃっていう欲求は男ホルによって生じてると思う。

A:そうなんだ。

B:何か出してやらないと、身体に溜まってしまってるっていう感覚は、トランスの人でも男ホルによって生じてると思う。精子ない人でも。


A:なるほどね。ありがとう。わたしもセックスしててイクときあるけど、あれは全然なんか「出してる」感じないわ。

B:ふーん、なんなんだろう。

A:うまく言えないけど、お尻から脳天に向かって、電気の槍で上向きに刺されてる感じ。

B:それは性欲とは呼ばない、別の衝撃なの?ホルモンとも無関係?

A:よく分からないが、わたし的には「性欲」ってのは、なんかムラムラとか、エッチなことしたいとか、そういう感情なのかなって思ってる。そういうのはね、ないね。皆無。でもセックスしてて、今だけど、イクときは、そういうムラムラとかなしに、いきなりバチーンみたいな感じ。なにかが発散されているという感じでもないな。

B:しゃっくりみたいな感じ?

A:例えが幼い。

B:ははは(笑)

A:まぁ、そうかもね。でもしゃっくり…、でもないんだよなぁ。でも近いか。嘔吐や排せつよりはしゃっくりに近いわ。何も出てないし。ごめんこの話はもういいや。

B:ホルモン関係ないところまで話がいったね。


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