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あかり&あきら対談「身体の性ってなんだろう?」

更新日:2023年4月28日

今回、五月あかりと周司あきらの二人で話し合うのは、トランスジェンダーを説明する時に使われがちなフレーズ「身体の性」っていったい何だろう?という疑問です。 A:五月あかり(出生時に男性を割り当てられたが、現在は女性に埋もれて生きている。トランスジェンダー)  B:周司あきら(出生時に女性を割り当てられたが、現在は男性をやっている。トランス男性)


【ホルモンの地味な変化】

B:あかりさん、最近冷え症なんだって? A:そうなの。指先とかキンキンに冷えちゃう。前はこんなじゃなかったのに。 B:すっごい女子のふりされるから、どうやって突っ込んだらいいか分からない(笑) 。 A:いや、女子だから!女子だから! (※しいて言うならあかりさんはノンバイナリーです。)

B:女ホル(女性ホルモン)のせいやろ。 A:そうだね。女ホル始めてからだね。こんなに手先や足先が冷えるようになったのは。前はこんなに冷えなくて、身体の内部からの熱エネルギー?が指先まで届いてたんだけど、女ホル始めてから熱量が減って、その分すぐに冷えやすくなったと感じる。

B:理科みたい。逆にわたしは男ホル(男性ホルモン)で熱を得ましたからね。 A:ほー。 B:『男らしさの歴史』にも書かれてたけど、「男らしさ=熱」!って考えられてたこともあるってさ。 A:へー。熱ねぇ。じゃあ女性は冷めてるってこと? B:二人の体感的には、エストロゲン(女性ホルモン)が多いと冷えがちってことだよね。 A:そうね。間違ってはない。マジな話、平常時の体温も0.5~1°C弱くらいほんとに低くなったよ。 B:あ!なるほど。あの、男性のリクエストに応えてエアコンの温度を下げると、同じ部屋にいると女性が寒がるみたいな話、本当にそういうことなのね。 A:いやー、たぶんそれはマジ。もちろん、寒い暑いは個人差あると思うけど、やっぱテストステロン(男性ホルモン)を身体に持ってる人たちは、熱量が高い気がするよ。自分でもほんとにそれは感じる。


【肌が白くなった】

B:いやぁ、『ウィッピング・ガール』のセラーノさんも書いてたけどさ、性別を規定する時に「社会的に構築されています」っていう考えと、「生物学的に決められています」的な考え、まあその表現は正しくないかもしれないけど、どっちもあるていど正しいし、どちらかだけで性別が成り立ってるじゃないよー、っていうのは、読んでて「分かる」って思った。 A:そうだよね。まあ多分、性別が社会的に構築されてます、って言ってる人たちも、女ホルを多くもってる人たち、つまり女性たちの身体の状態と、男ホルを多くもってる人たち、つまり男性たちの身体の状態が同じだ、とは多分言ってないとは思うんだけど、トランスして、ホルモンとか入れ替えたりすると、やっぱりなんか思う所はあるよね。


B:肉体に露骨に違いが出てくるからね。それは変えられるものでもあるし、ふだん扱われるジェンダーと直接結びついてるものでもなく、バラバラに配置されてるものでもある。 A:ごめん、もうちょっと詳しく 。変えられるってところは分かったんだけど。...

B:例えば女性ホルモンを多く持っている人は、そうでない人よりも肌が白くなりがちだし、肌が繊細だし、髪がまっすぐ伸びがちだし、体温が低くなりがち。そうした様々な特徴はすなわち「女性として生きてる人」と完全に一致するとは限らないんだけど、ある程度の傾向はあって、身体的な特徴と、特定の性別が紐づけられがちなところがあるのは同意する。 A:うんうん。

B:でも肌が白い人ならば女性です!とはならないし、そもそも性別自体が適当に作られてるものでもあるからなぁ。とはいえある程度、身体的な特徴と、生きてる性別とが結びつく傾向があるのは無視できないよねって話。トランスの人もわざわざ身体的な特徴を変える理由はそこにあるでしょ。社会的な性別、つまり生きていく性別を変えるってことは、身体的な特徴を変えなくても可能だから、すぐにそれとそれがイコールってことにはならないんだけど。 A:なるほどそうだよねー。肌が白いなら女性、ってことにはならないけど、女性ホルモンを多くもってる人は肌が白い人が多いよねー、っていうのはマジでその通りだし。だからこそ、わたしみたいなMtF(男性から女性への移行を経験する人)は、女ホルやって肌が白くなることでパス度が上がったりする。つまり、女性として社会で見なされたり、女性としてその場所で存在したり、ってことが容易になるんだよね。

B:そうね、全然男ホルが多い状態で女性としてパスしてる(MtF系の)人もいるわけだけど、なんか身体も無視できないものだよねって話。そもそも性別とすぐさま結びつかないとしても、お腹が減るとか、老いるとか、妊娠するとかも、それぞれ無視できない事柄じゃん。 A:そうだよね、身体は身体であるもんね。 B:そうそう。で、性別について深く考えたことがない人は、どの特徴だったら性別と結びついてて、どれくらい重視されてるのかとか、読む必要がないから読まずに生きてるん だなーって。


【トランジションはアハ体験】

A:あぁ。分かるかも。ていうか、シスの人たち、全然その辺わかってないよね。 B:それはそうだし、私もそう。なんか、女友達(シス女性)に会うたび「あれ、肌白いね?!」って驚いてたんだよ。確かにその人は出生時から女ホルを持ちがちだから肌が白かったんだけど、一方で私は男ホルで肌が赤黒くなってたんだよ。その頃は気づいてなかったんだけど、今ではこれ(肌の色)も性別と紐づけられた身体の特徴なんだなって理解しちゃった。 A:はは。自分の肌が赤黒く変化してるし、それが男らしさと結びついてるってことに、気づいてなかったってことね。それで「あれ、この人は肌が白いなぁ」って女友達を見ながら思ってたんだ。それは面白い。友だちからしたら「お前の肌が黒いんだよ!」ってなるところだね。 B:そうなんだろうけど、その友達は友達で、昔自分と同じように白かった奴(あきら)がどんどん黒くなって男になってるって事実には気づいてなくて、二人の肌の色がどんどん離れてってるのに、お互い鈍いからさ、「あれ?おかしいね」って二人ともなってるっていう。 A:「トランジションはアハ体験」だね!

B:そうだね(笑)でもさ、今さ、AVに映ってる男女を観てたら、確かに相対的に男の方が黒っぽいし、女の方が白っぽいの。でも昔は、体格とか性器とか注目してたから、肌の色の違いに気づいてなかったわけ。でも自分自身が変化して、これも性差を構成する一つに見えるらしいと気づいた。 A:へぇ~。そうかぁ。じゃあトランスの人でも、「身体の性差」ってことでどんなことを考えてるかとか、どんな違いの傾向に気づいてるかっていうのは、ほんとに人それぞれって感じなんだろうね。シスの人なら、なおさらだよ。みんなペニスしか見てない。 B:なんか最後ショッキングなこと言わなかった? A:はは(笑)

B:まあいいや。例えば女ホルやってたら爪が柔らかくなるとか、男ホルやってたら耳クソが詰まりやすくなるとか、誰も教えてくれないじゃん?でもシスの人たちも、そうなん だよ。気づいちゃったの!男性用のグルーミングキットを取り寄せたときに、なんか爪切りとか眉を整えるやつと一緒に、耳ほじるやつもセットで付いてたわけ。こんなの何に使うんだ?って最初は思ってた。でも男ホルやりだしたら耳が詰まりやすくなったと感じて、「そっか、男の人には必要だったんだ」って気づいたわけ。 A:耳クソの変化は、わたしはあんまり個人的には感じないけど、爪は感じる。すごい剥がれそうで怖いもん。男ホルの優位だったころ(睾丸摘出や女性ホルモン投与をする前)は「やばい!爪が剥げる!」とか全くなかったんだけど、最近は段ボール箱をうまく持てなかったりとかすると、ほんとに「爪が剥げそうだった!あぶねー!」ってなるよ。


【女性の胸は購買能力と結びついてしまう】

B:かわいそう... 。これまでホルモンの話ばっかりしてきたけど、他の要因で「身体の性」が変わってるって話する?ブラジャーとか靴とか、歩き方とか。 A:いやー、無数にあるよねぇ。 B:なんか、前にあかりさんが言ってた話だと、女性の胸がブラジャーによって作られてる、だから階級によっても胸の形が作られてるって話は面白かった。 A:はいはい。

B:お金のある女性は、いいブラジャーを買って、胸を理想とされる形に保てる。でもそうでなくて、貧困だったり、働くので精一杯みたいな女性だと、胸を理想の形に保つってことが難しくなるから、「美しい」とされる規範的な胸からは離れていく、みたいな。 A:そうだね。私自身が女性みたいになって、ブラジャーして生活するようになって、ほんとに感じたよ。どんなブラをしてるかで、結構胸の形って変わっていくんだなって。それでさ、高いブラジャーって高いのよ。 B:そうみたいだね。あんまりこだわりなかった私からすると、詳しいことは分からない んですけど。

A:それでも「元女子」なの? B:ははは(笑)。こんなもんですよ。言い方悪いけど、私は胸オペ 80万くらいかかったけど、「ようやく粗大ごみ捨てられた」くらいに思ってるから、そんなゴミに高級ブラジャーを買うような無駄なことしなくてよかったってホントに思ってる。 A:粗大ごみはやばい(笑)。まあでも、ごみだよね。あなたからしたら。 B:身体に愛着とか持ってなかったからさ。なんか「不要か否か」みたいな。子宮も卵巣も、使わないならいらないし。まぁそこは金との相談でもありますが。

A:話をブラジャーに戻すんだけど、今わたしはトランスジェンダーにしては珍しく、そこそこ安定した仕事をさせてもらってるじゃん。そうするとさ、7000円のナイトブラとか、買えちゃうわけ。詰め替え用が 1500円とか2000円とかするシャンプーやコンディショナーも買えるし、カットとトリートメントで1万5千円とか、美容室で隔月で払えちゃうわけ。わたしの「女性身体」って、購買能力と結びついてるんだよ。 B:金で身体は作れる!!

A:まぁ、何が言いたいかっていうと、お金のあるなしで、身体の形自体が変わるってこと。長い髪をキープするには金がかかるし、綺麗なおわん型のおっぱいをキープするにもお金がかかる。

B:女性誌の読者投稿に美容の専門家が応えてるみたいだな... 。


【身体を矯正する】

A:逆に言えば、わたしの地元で農業やってた女性たちと、今のわたしは、同じ「女性の身体」って言っても、全然違うんだよね。足の形だって絶対違うんだよ。わたしの足、性別移行してからどんどん小さくなってるもん。先の細い女性用のパンプスとかヒールとか履いてるから。

B:足の話をすると、私は私で逆の体験をしてるから「わかる~」ってなった。狭くてほっそい靴を履かなくなったし、男性ホルモンと関係あるのか分からないけど、私の足おっきくなったの。前までメンズシューズは履けないかなと思ってたけど、普通に履けるようになった。「男性ホルモンして足が大きくなった」とかは聞かないから、同じような経験してるFtMがいるかは分からないけど、予想外のところで身体は変わるんだなって。

A:それね、前も聞いたんだけど、たぶん足が「大きくなった」んじゃなくて、「大きくなるはずが『女性用の靴』で疎外されていたのが、解除された」だけだと思うんだよね。 B:男になったらコルセット外せた、的な?まあほとんどのFtMは足成長してないみたいだから、私は例外的。

A:わたしは足のサイズ1~1.5cmくらい小さくなったー。 B:それはやばいね。でも、思い出した。知り合いのトランスの女性は小さい頃、足が大きくなるのが嫌だから、窮屈な靴を履いてて、結果、小さいというか、男としては明らかに小さいし、女の平均に収まるくらいに「矯正」されてたんだと思う。 A:ひぇぇ。 B:纏足(てんそく)だよ。

A:でも、現代でも纏足はあるんだよ、だから。わたしの足だって、ウィメンズの靴ばっかり履いてたらどんどん小さくなっていったし、胸の形だって、ちょっとお金出してブラジャーとかちゃんとしてたらお椀型になるんだし。 B:すごい怖い話してる。 A:そうね、ジェンダーって怖いからね。 B:ははは(笑)

A:身体の姿勢?というか、歩き方も含めて、それも、全然違うし、やっぱり纏足じゃないけど、明らかジェンダーじゃん。これって。男女の「あるべき身体の姿勢」っていう規範があって、その規範に合わせることで、身体の形自体が変わってるじゃん。 B:社会的に身体の性別は作られてますね。 A:まとめてきたね。そういうことだよ~。わたしの背骨、S字じゃん? B:あかりさんはそうだよね。 A:このS字カーブはさ、いかにも「女性の身体」なわけ。 B:男で見ないね。男の人、もっとけだるそうな姿勢してる。それでまかり通ってるんだもん。

A:分かる。わたしも男としてパスしないといけなかった中学高校は、わざとけだるそうにしてた!でも、今みたいにS字の姿勢で立ったり歩いたりするようになったら、わりとすぐに女性としてパスするようになったよ。「女性の身体」って社会的に作られてるんだなーって実感した。 B:すごいなぁ。私はそんな計算して姿勢を変えたわけじゃないんだけど、でも「女の子なんだからこうしなさい」っていう制限から外れるようになったら、自然と男に馴染んでて、あんまり変えた意識はないんだけど、気づいたら(男に)馴染んでた気がする。 A:あきらさんはそうだよね。わたしは、男になるときも、女になるときも、人為的な努力で身体を変えてきたんだよ。


【なりゆきの身体】

B:身体なんてなくなれ、とか思わなかった? A:うーん、死にたいとは思ってたけど、身体なくなれとかはあんまり思ってないかなぁ。社会的に女性になってからは、色々憎らしい身体のパーツはありはしたし、実際に(手術で)削ったりもしてるけど。 B:あかりさんは何か、外科的な手術するより先に、女性としてパスできる状態になってたからね。私からすると「治療しないと性別変えられない」って思ってたけど、全然そうじゃない人もいるってことで。 A:そうだねぇ。なんか、往復書簡(埋没した世界)でも書いたけど、「なりゆき」って感じ。 B:はいはいはい。

A:男として生きるの無理、死ぬしかないってなって、しょうがないから社会的な性別を変えて、そしたら思いのほか今度は女性としてパスしてしまって、なんかこっちなら死にたい衝動が前ほどじゃないぞってなって。でもそうなると今度は、女性として生きていくうえで邪魔になる身体のパーツが気になりだして、やっぱこの身体も無理だったんだって気づく、みたいな。ごめん私の話しちゃった。 B:こういう自分語り、普段許してもらえないから、できるときにしとき。

A:どうも。


【あるべき身体】

B:私は聞きたいんだけどさ、シスの人は「なりゆきの身体」って意識がないのかね。「これがあるべき姿だ」って思ってるのかな。少なくともなんか、望みの形とは違うっていうのはあるかもしれないけど、性別と紐づけられている特徴が明らかに違ってて「おかしい」っていう性別違和を抱いてないってことでいいのかな。 A:どうなんだろうね。不思議。私たちからするとさ、ホルモンを人工的に打ち始める前は、わたしの場合は「テストステロンがある状態」で、そこからオペしたり女ホル始めたりして、今度は「エストロゲンがある状態」になったんだよね。でさ、閉経前のシスの女性の身体は、わたしからすると「エストロゲンがある状態」に見えてるわけ。 B:私にもそう見えてる。

A:そうそう、でも多分さ、シスの人たちは自分たちの身体を「自然な状態」だって思ってて、わたしやあきらさんの(トランスの)身体を「不自然な状態」って思ってるんだよ、たぶん。だから、私たちからすると、シスの人と私たちの身体には共通点しかないように見えてるんだけど、シスの人たちからすると、どうもそうじゃないっぽいんだよね。

B:それ、医者目線でもそうなんだろうね。トランスジェンダーの男性が男性ホルモンを必要とするのは、”男性なのに男ホルが足りてない状態”と解釈できるじゃん?で、シスジェンダーの男性でも、男ホルが足りない人は、摂取しようって同じ行動をしてると思うんだけど、片方が保険適用外で「不自然な治療」で、もう片方は適用内で扱ってあげるべき「自然な治療」って思われてない?やってること同じなのに。 A:わかる!!!!わたしの身体はさ、言ってみれば「卵巣のない女性」と同じような医療のニーズを抱えてるの。でも、そうは見なされなくて... B:「トランスジェンダーが特別な、異常なことをやってる」って思われてるわけね。

A:そう。意味わかんないよ。事故や病気、他にも手術の副作用とかで、卵巣や精巣を失った人がいてさ、ホルモン投与が必要になりましたってなったらさ、「必要だよね」ってなるはずなのに、私たちがホルモンしようとしたら「必要ないはずのことしてる変な奴ら」って思われてるんでしょ?謎過ぎる。私なんてもう精巣もないし、もともと卵巣もないから純粋にホルモン作れなくなった女性と同じ状態なのに。

B:出生時の身体があるべき身体で、いじっちゃだめっていう規範。変だよね。てかシスの人たちも、生まれたてのときは性差ないし、第二次成長期に特に性差が作られてるように見えるんだけど。それってトランスをいじめてる理屈によれば、シスの人に訪れてる第二次性徴も結構変な気がするんだよね。 A:というと ?... B:あなたの身体は勝手に変わってますけどそれで納得してるんですか?っていう。シスの人は身体がシス的に、例えば女性の人ならあんまり声変わりせずに、胸は膨らみ、生理がきて、ふっくらして、それってあなたは一度も同意してないし納得してないはずなのに、どんどん生まれたときの身体から離れていって、性差が後付けで与えられてるけど、「なんでそれでいいの?」って。 A:いや、なるほどね。わかるよ。みんな別に好き好んでその身体になってるわけじゃないはずなのに、「あるべき身体」だって信じてて、よく分からん。

B:私一回、シスの男性に聞いたことあるの。「声変わりするとき怖くなかったんですか?」って。今までの声とは全く違うのになるし、予想できないし、怖くなっても仕方な いと思ったわけ。でも聞いてみた人の答えは「別に。親父と似たような声になると思ってた」って言われて。もちろん、変化が訪れることを怖いと思うシスの男性もいるし、とりわけメンズリブにコミットしたりして自分の性別について考えてきた人の中には、自分の声変わりや毛が生えることを戸惑った人もいるみたいなんだけど。でも多くの人はなんとなく納得して、未来の自分の姿なんてわからないのに、その未知の変化を受け入れてるんだって、驚いた。 A:うんうん。


【トランスだと受容する怖さ】

B:私は女性的になっていくときも男性的になっていくときもどっちも怖かった。中学生くらいに「女性的な身体」になっていくのも予想できなくて怖かったし、おばさんになる未来とか皆無だから、それはそれで怖かった。 で、成人してから男性化の治療し始めて、そのときもなんで怖かったかっていうと、自分が「トランスジェンダーの男性」になるのが怖かったんだと思うシスジェンダーの男性になる場合、自分の親父みたいになるとか、サンプルが沢山あったと思うんだけど、私がなるのは「シスジェンダーの男」ではなく「トランスジェンダーの男」でしかないからさ、それってすごく未来が見えないことだった。 A:うんうん。 B:シスの男になるんだったら、こんなに変化することに恐怖を抱いていなかったのかもしれない。

A:ふーん。面白い。考えたことなかった。私はもともとの第二次性徴がすっごく遅かったし、身体の変化も微々たるものだったから、あんまり恐怖とかはなかったかなぁ。どっちかと言うと、自分の身体が第二次性徴の変化を見せない「子ども」のままであることの方が、自分にとっては危険だったから...。女性になるときも、身体の変化は怖かった記憶はないかなぁ。ホルモン始めた当時はもう、毎日生きてるのか死んでるのか分からない状態だったから。恐怖の感覚が死んでた。 B:はぁ、なんか、分かると言えばとても分かるんだけど、往復書簡を通して分かったこ とでもあるけどさ、私は未来を向いていて、あかりさんは過去の方を向いてるよね。

A:そうだね。ずっと、そうだね。わたしは未来に希望も恐怖もないよ。過去から逃れるために性別を変えているし、あのころに比べたらまだ今の方がましって理由だけで今日も生きてる。 B:私、逆だなぁ。今が最悪だから、今後がどうなってもどうでもいい、みたいな感じで先に進んじゃうの。


【自然な身体を取り戻す感覚】

A:ちょっと話が戻るんだけどさ、あなたも知ってるように、わたしって、結構大きな手術を受けたことがあるのね。今も、継続的に治療も続けている病気もある。そうするとさ、も うわたしにとっての「ありのままの身体」が何なのかってのは、分からないのよ。手術をする以前とかはさ、「あるべき身体」が病気で失われて、死にかけてたから、手術をしたことで「あるべき身体」を取り戻したと思ったのね。でも、それは手術の結果だから、人の手が加わってる。でもわたしにとっては、「もともとこうだったはずの自然な身体」を取り戻したって思ったの。 それでね、私たちトランスにとって、オペしたりホルモンしたりっていうのは、そういう感覚なんじゃないかなって、思うの。シスの人たちからすると、「身体に変なことしてる」とか「あるべき身体に傷つけてる」とか思われるんだろうけど、違ってて、そうやって医療の手を借りてようやく「あるべき身体」や「ありのままの身体」を取り戻してる気がするのよ。

B:もともとこうだったはずの「自然な身体」ねぇ。それ多分、トランスの人にもシスの人にも、ある人にはあるし、ない人にはないんだろうな。 A:だから思うんだけど、シスの人もトランスの人も、身体の第一次・第二次性徴については、否応なく降りかかってくるものなわけじゃん。それで、そうして自分で望んでもなく降りかかってきた変化に対して、「それでいいよー」って人もいれば、「そのせいで本来あるべきありのままの身体が失われた」って感じる人もいていいはずで。後者の人はさ、医療の手を借りることで、ちょうど私が病気の手術をしたようにね、医療の手を借りることでむしろ「ありのままの身体」を後から取り戻してるだけだと思うの。

B:うんうん。なんか、その「あるべき身体」を考えるときにさ、マイナスにするかプラスにするか、という視点があるわけじゃん。そのパーツはあるべきじゃないからマイナスにして、今はないけど本来あるはずだからプラスにすべきだ、みたいな。 で実際に医療で手を加えられる範囲も、願望通りにいくわけではなくて。例えばトランス男性が戸籍を変える場合には、マイナスだけを求められるじゃん。胸はとる必要ないけど取りたい人が多いからとると考えて、子宮や卵巣をとって、っていうマイナス(削ったり切除したり)になる。立派な喉ぼとけが欲しいとかペニスが欲しいとか、プラスを欲しがる人もいるけど戸籍変更要件には求められない。トランス女性的な人も、基本はマイナスにすればいいのかな。 本当は当事者の願望、必要性としては、ペニスが欲しいとか子宮卵巣が欲しいとか、プラスにしたい要求もあるんだけど、そことは医療や法律はあんま噛み合ってなくて、たぶん戸籍上は「逆の性の要素をマイナスにしてくれ」って指示だけがまかり通ってるんだよ。だから個々のトランスのあるべき姿とは合致してないんだなと思いました。

A:そうだね。たぶん、プラスの変化は「自然に任せるべき」って思われてて、人為的な変化としては、マイナスの、取ったり削ったり、ていう方向になりがちなんだろうね。 B:それすっごい不思議だよね。シス的な視点からは、取ることって悪いことなんじゃないの?取るっていうマイナスばかり求められて、当事者の求めるプラスは無視されるんだね。法律って不思議だね。法律っていうか、その背後にある世間の眼差しと言うべきか。 A:そうだね。「自然な身体」を大切にしろ、とか一方で言いながら、戸籍を変えようとしたらゴリゴリとマイナスして削ることを要求してくるんだもんね。意味が分からない。 B:トランスに死んでほしいんだと思うよ。でも流石に「死んでくれ」とは言いづらいから、ぎりぎり許せる範囲で、お慈悲ですよ。 A:そうだよね、ほんとに。生きてきて、思うよ。この社会は、わたしみたいなトランスジェンダーに死んでほしいんだって。思うよ。 でもさ、話変わるんだけどさ、前の「シスジェンダーの悲劇」じゃないんだけど、ほんとはシスの人の中にも、否応なく降りかかってきた「身体の性別分化」が辛かったって人、嫌だったって人、いると思うんだよ。でも、それを絶対に受け入れないといけない、自分の身体は「女性身体」や「男性身体」以外ではありえないんだって、わざわざ自分をそこに縛り付けて、自分の首を絞めながら生きてる人が、今のところは多いと思うの。 B:わかる 。...

A:そうやってさ、選んでもない第一次・第二次性徴の、望んでもない変化と付き合うための唯一の方法が「諦めて我慢する・耐える」になっちゃってる(シスの)人たちはさ、だからトランスが憎いんだと思うんだよ。身体の性的特徴を変えたり、降りかかってきた性的特徴とは別の性別として実際に社会的に生きてる人たちが、憎くて仕方ないんだと思う。だから死んでくれって、思うんだと思う。


【内的なトランスフォビア】

B:うん。めっちゃ分かる。ていうか、シスの人がトランスの人を憎むのは分かるんだけど、トランスの人でも、医学的であれ社会的であれ性別移行を経ていない人が、(大きな括りで)同じ「トランス」の人を憎んでることがあるじゃん?何より自分自身を受け入れてないから、内的なトランスフォビアが外に出ちゃってるの。すごく分かるよー。

A:いるよね、そういうトランスの当事者。んでさ、今はシスジェンダーとして生きてるけど、性同一性がないタイプの人でさ、自分の身体の性別分化、第二次性徴とか、降りかかってきたものと折り合いをつけるのに苦労した人なんだろうな、っていう人が、めっちゃトランスヘイターになってる気がするんだよ。でも、頼むからそんな憎しみをトランスに向けないで欲しい。悪いのはトランスじゃないから。選んでもない性別分化を受け入れて、やれって言われた性別を強引にやらないと生きていけない今の社会の問題だから、それ。

B:そうね。ときどき、そういうトランスフォビアを持ってるトランスの人とシスの人は区別がつかない。すごい紙一重だと思う。これは多分トランスだけに限った話じゃなくて、マイノリティの人が「自分が社会から憎まれている当事者だ」と思うのは辛いことだから、そんなものは存在しない、あり得ないって言っちゃうことはあるでしょう。

A:そうだね。トランスの場合は、だから「女性の身体」と「男性の身体」ってのが明確に別れてて、それは自然の変化(第一次・第二次性徴)によって生み出される違いで、その変化だけが絶対で、それは受け入れないといけない。それで、「あるべき身体」っていうのはそれだけだ、みたいな規範が強すぎて 。... B:自分で自分を殺してる。

A:そう思うよ。私たちみたく、性別を引っ越しちゃったトランスの視点からするとさ、「男性の身体」と「女性の身体」って、けっこうそれぞれルーズだし、雑多だし、「男性的な身体の特徴」とか「女性的な身体の特徴」とかが、さっきのブラジャーや靴みたいに、社会的なジェンダー規範によって作られてたりとかさ、ホルモンやオペとかであっさり変わってしまうことを知ってる訳じゃん。でも、シスの人は「男性身体」と「女性身体」っていうのが全然違うものだし、両者を行き来できるなんて、絶対認めようとしない。申し訳ないけど、それはあなたたちの首を絞めてるだけですよ、って言いたい。

B:うん、それはそう。なんか、今あかりさんが言ったことを理解したうえで、でも、私は性別を引っ越せてないトランス、つまりかつての私を救うっていう謎の使命感も持ってて、その泥沼から目を背けちゃいけないんだなと思ってる。今私が、性別をある程度移行して、「性別なんてどうでもいいものでした」ってことをお利口さんみたいに言うのは、昔の罪から逃れてるなぁって。 A:罪? B:トランスフォビアを自分が持っていたこともだし、他の人にも突き刺したこと。 A:そうか。言ってたね。

B:収まり悪いけど、これくらいで一回終わる? A:そうだね。もう何時間も喋ったしね。続きはまた後日ということで。


後半、あるかな??


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favilla_cazadora_pescadora
30 abr 2023

お疲れ様です。「心の性」「体の性」というものにちゃんと向き合っていて改めて勉強になったり凄いなって思ったりしました。わたしは「心の性」とか「体の性」とかいう物に向き合うのが不器用というか苦手なんだなと感じました。悩んでも悩んでも未だ答え出ずみたいな感じです。


以下は私のトランス(性別越境)について。私の場合は「心の性」や「体の性」というのを頭では理解できているのだけれども肌に合わないんですよね。


どう言ったらいいのかな、「朝起きて別の性別に間違われるようになっていたら、あなたは甘んじてその現実を受け入れるのですか?それとも私の性別はって言い張るのですか?」っていう感覚に近いものがあるんですよね。


私の場合は「男性扱いされる」か「女性扱いされる」かした時に「耐えられるかどうか」が大きな指標ですね。また都合のいい様に「男性扱いされ」たり「女性扱いされ」たりしてるな~って感じるのが一番堪えられないですね。


私の場合は幼少の頃から性自認が女性だし感性も女性よりだと思うし服装とかも女性よりだと自分では思うんですけれど、アウトプットが完全に男性よりなので男性としてみなされるし男性として埋没しかかってることの方が多いですね。物心ついた一番初めの記憶が「え、なんで男性扱いするの」でした。大人になった今でもそういう場面では往々にして楽な方を選びがちで「しかたないから男性扱いされてあげる」「男性扱いしてるほうが楽」なコンセンサスがお互いに成立している感じがしますね。


お客様から「女性職員の意見も聞きたいですね」って言われた時に、うちの上司が「ここには男性職員しかいません」って言って、お客さんが「えぇ、でも・・・」みたいな事になった時には生きた心地がしませんでしたね。本当は女性職員として答えてあげたかったのだけれども、自身の進退やゲイを公表していた同僚の扱われ方を思うと応えてあげられなかった。後から知った事だけれど以前にトラブルがあったらしく女性はそこで宿直勤務できないことに暗黙の社内ルールでなっていたそうだし、わたしが居ないとまわらなかったから上司のあの発言だったんだろうと思う。


別に私としては男性扱いして欲しいわけじゃないし、かといって女性らしくするから女性扱いされる(女性らしくするから女性扱いしてくれって)のも痛し痒しみたいな。「私が女性かどうかと貴女(貴方)が私を女性扱いするかどうかは別だよね」っていう。また、私が女性(男性)らしく振る舞いたい相手を選んでいたとしても、それは悪い事じゃないよねっていう。う~ん、私って結構身勝手だったのだろうか、いやでもこれって程度の差こそあれども普通の事じゃないの?子供でも大人でも無分別に甘える相手を選ばないですよね?「男性は男性らしく女性は女性らしくしていたほうが大切にされるからそうするんですか?そうしない奴は大切にしなくていいのですか?男性らしく女性らしくして欲しかったらそうされるようにそちらも努力いたしませんか?私から女性職員としての意見を聞き出そうとしたあのお客様の様に。」って思っちゃうのはわがままでしょうか。


「朝起きて指が6本になってたら1本切り取るんですか?」「健康診断で癌が見つかっても手術を受けないんですか?」「虫歯になって抜かなければいけなくなった時に抜きっぱなしにするんですか?」「朝起きて別の人になっていたら、あなたは甘んじてその現実を受け入れるのですか?」「私の腕じゃないから切り落としたいって人が居ても止めないんですか?」「じゃあ、あなたは別の性別扱いされた時にどうするのでしょうね。」


これが私の体感している日常なので、「心の性」とか「体の性」とか言われても困ってしまうのですよね。「風呂屋の番台が寝不足で別の性のロッカーの鍵を渡されたらどうするんです?」私にとっての「心の性」とか「体の性」とかはどちらもこの「間違えて渡されたロッカーの鍵」みたいなものなのですよ。「私の問題」でしょうか、「あなたの問題」なのでしょうか? ある程度、譲歩できる限りにおいて、問題解決に寄り添おうとは思いますけれどね。さとみ

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