top of page

「元女子」

木本奏太さんの『元女子、現男子。』の感想です。


YouTubeは二人組だった頃からよく観ていました。「女から男になる」「トランスジェンダー」「FtM」なんかで検索するとトップに出てくる動画でしたからね。あれから、奏太さん一人になって映像作成を楽しんでいる様子が伝わってくるので、LGBTQの話題と紐づけられがちな「自分らしさ」というキーワードが、次の段階にもいっているのが良いなぁと。私もほんの少しだけYouTube作成してみたことがありますが、こう、奏太さんの動画は聴覚による情報収集が困難な方にも観やすい作り方がなされているようで。それも経験が活きている点なのだなーと。


●何をもって「男」なのか

奏太さんの場合は、性別適合手術(文中では、「性転換手術」という言い回しが多いです)とそれによる戸籍の性別変更が最大の「男になる、男としてやっていく」ゴール地点として設定されています。個々のトランス男性(FtM)によって、ゴールは様々です。戸籍変更は通過点に過ぎなくて、「ペニスをつけること」や「好きな女性と結婚すること」が最大の目標として向かっていく人もいますしね。別に戸籍変更に関心はない、という人もいます。


私はこの点をけっこうスルーして、私の身体や戸籍がどの状態であるかはもはやどうでもいいのですけど、一人の男性として置かれている立場から“男性問題”を考えていきたいです、といったスタンスですし。それが最も現実的に対面せざるを得ない問題になってきているからです。

また、トランス男性の語る「男になる、男としてやっていく」ビジョンというものは、シス男性の捉えている「男」像とも差異はあるでしょうね。(とくに移行前の)トランス男性目線からしたら、たとえダサかろうが金が無かろうが、「男は男」に見えていて、羨望の対象なわけです。いいなあ、男なのかよ、あんたはどれだけ腐っても男でいられるじゃないか、って。


ちょっと興味深かったのですが、浅沼智也さんの『I Am Here』に登場するトランス男性の中には、「あえて戸籍変更しないでおく」という方もいらっしゃいました。戸籍だけ男性になっても、身体の内部構造(子宮卵巣を摘出したとしても、です)が女性と共通の場合、いざ病院に行って適切な対応をされないと困るじゃん、といった背景を述べられていました。救急車で運ばれて自分で説明できないときとか、困りますもんね。身分証明書が「女性」の方がそういうとき役立つんじゃね、ということらしいです。


●女性としての「カモフラージュ大作戦」

ここは本書のポイントかなと思うのですが、奏太さんは「人と違う」ということを恐れていて、ちゃんと女性らしく見えるよう、どうにか頑張って生活していた、というエピソードがあります。(p154-)


1、髪の毛を伸ばす

2、化粧をする

3、服装を変える

4、男子に告白する


うっ、よくそんなこと我慢できたなぁと思わず思ってしまいました。とくに、「化粧をする」ってとてもハードルが高いです。全く興味のない、むしろ嫌なことにお金と時間を割いて、他人にまで協力してもらわねばならないなんて、端的に苦行です。(ちなみに私の場合は綺麗好きなところがあり、「化粧をする」という動作は、自分の皮膚に不純物を塗りたくるキタナイ行為であるように思っていて、そうした理由からも拒否反応がありました......)


学生時代は女子生徒が「スポーツやってればボーイッシュでも許される」風潮というのは“わかる”んですけど、その一方で、そんなスポーツ女子の同期たちが私服の時はきちんと「女の子っぽくて」「化粧もしてる」姿で、自分一人だけ結局疎外感があるところとかね。


私自身は「男である」「FtMである」と認識していなかったわけですが、なんだかんだと「FtMあるある」エピソードに同調できてしまうところがあります。だからもう、それでいい気がします。名づけや名目、分類にはあまり興味が持てないのだと思います。


●「元女子」と言うこと

当事者から不正確じゃないか、と批判されることももちろん何度もあるでしょうけれども、奏太さん自身は「FtMというよりは、元女子」「性別適合手術というよりは、性転換手術」という言い方をします。“当事者”ではない人の方が13人のうち12人くらいを占めるわけで、そういった関心のない方にも知ってもらわなきゃ状況は変わらないから、というのはご尤もではあります。手術の言い方は「性別適合手術」の方で良くないか?と思うのですが。


まあ、私自身は「元女子」と名乗ることはないだろうなあ。たとえば誕生時を見れば「アメリカ出身」だけど幼いうちに日本に住み着いた人って、「日本人」のアイデンティティや生活習慣を身につけていて、別に「アメリカ出身」の事実は覚えてすらいない、みたいな人もいると思うのです。もはや私もそれに近い。記憶として尊重すべき事実ではなかったように感じるし、事実、もう覚えていないようなこともある。だから「現男子」の方だけで物事が進んでいけちゃうことが多いです。これも奏太さんがいうように、「恋愛」「結婚」のような障害物が爆誕すると考えざるを得ないかもしれないが。

閲覧数:112回0件のコメント

Comments


Post: Blog2_Post
bottom of page