2023年7月12日(水)の朝刊を比べてみた。個人の感想です。
朝日新聞、東京新聞、毎日新聞、日本経済新聞、読売新聞、産経新聞の6社。
朝日新聞と東京新聞は「トランスジェンダー」と表記し、他は「性同一性障害」での報道だった。
「戸籍上の性別を変更していない性同一性障害職員の女性トイレ使用を経済産業省が制限した問題で、最高裁の第三小法廷(今崎幸彦裁判長)は7月11日、使用制限は「違法」とする判決を言い渡した。」
【朝日新聞】
いつも通りの良記事。31面(社会)では、「自認する性での生活「切実」」との見出しで、原告のコメント、弁護団の評価、そして今崎幸彦裁判長が補足意見の最後に添えた「公共施設のあり方に触れるものではない」という言葉を記載する。この判決によって「『心は女性』と自称する男性が女性トイレに入ってくる」などの言説に繋がりようもないのだ、ということを想起させる。
【東京新聞】
頑張っているアライ(支援者)、という印象の記事だった。性自認を尊重しよう、というのが大義であるのはまあ大事なことには違いないのだが、今回の判決では「生活上の性別」がすでに女性である、という面が重視されていたように思う。なので、その辺にいる女性をつまみ出して「お前はこの女性トイレを使うな!」って排除しているようなものなのですよね、今回のケースは。個人の生活に着目されていたのだということを、記事内でもっと伝えてもよかった気はする。
【毎日新聞】
判決のなかで述べられていた具体的な話をきちんと盛り込んでいて、よくまとまっている。化粧や服装、更衣室の利用はそもそも認められていたのに、なぜか女性トイレだけ2階以上離れたところを使え、という謎制限をされていたことが読めばわかる。3面では同性婚の訴訟にも触れ、「多数派の原理で負けてしまう少数者を司法として放っておけないという意識が働いているのだろう」と元最高裁判事の千葉勝美弁護士の分析も紹介している。
【日本経済新聞】
1面は短くシンプル。34面(社会)では「全裁判官が補足意見」ともう少し詳しく報じる。後半は日本の法整備の不手際について触れているので、判例にまつわる記述は少なめ。
【読売新聞】
34面に悪意があるとまでは言い切れないが、今崎幸彦裁判長の補足意見から「社会で議論が深まり、合意が得られることに期待を寄せた」で締めて、真横に山崎文夫・平成国際大名誉教授の話「トイレに異性が入ってくることに抵抗感があっても、声を上げられない女性もいるはずだ」を紹介するのは、恣意的では。
【産経新聞】
1、2、3、5、22、24面に当該記事がある。1面はなるべくシンプルな報道に努めている印象。24面の、学校のトイレにまつわる紹介と原告会見も、悪くはない。ただし2、3 、5面は言いたい放題である。
2面だけでも「定義があいまいで自己申告による性自認と、医学的見地からの性同一性障害は線引きして考えるべき」と無闇に診断を重視する見方を示し、「1審は「違法」、2審は「適法」とした」判決を両論併記のように紹介して、さも2審にも妥当性があったかのように書く。理解増進法を引き合いに出し、「女性として自称する男性が、女性専用スペースに入ることを正当化しかねないという不安は払拭されていない」など、今回の判例では職場内の(原告以外の)女性職員の不安が具体的なものではなく合理性を欠く対応だったと記載されているにも関わらず、そこは無視して架空の不安を煽ることに熱心である。
3面では、この裁判とは全く関係ない文脈をねじ込んで、多目的トイレがあるのだから性的マイノリティはそこを使えばよい、と片付けているようでこれも酷い。今ここで出すべき話ではない。
5面では、LGBT理解増進会の繋内幸治代表理事とやらの「LGBT全体への反発を生み、社会の分断につながる恐れもある」と懸念を示した、というご意見。「LGBT全体への反発を生み、社会の分断につながる恐れもある」状況を作り出しているのはあなたがただろう。
同じ出来事に対する、報道の姿勢に違いがあることがよく分かる。
……他人に「性別適合手術を受けろ」と平気な顔して言う人たちは、一度実際の手術動画を観てみればいいのではないか。あれを、気軽に他人に強制できるというのは、どんな心持ちなのだろう。いや、心はないのだろう。
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