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『われらはすでに共にある:反トランス差別ブックレット』に寄稿しました。

現代書館より、われらはすでに共にある:反トランス差別ブックレット』が刊行されます。発売日は2023年8月20日予定。

こちらは、2022年11月に刊行された反トランス差別ZINE『われらはすでに共にある』の増補版です。ZINEの内容はほとんどそのまま、新たにエッセイが3本、ブックガイドが4本追加されています。


私(周司あきら)は、追加分のエッセイ1本と、ブックガイド1本を寄稿しました。

タイトルは、エッセイの方が「共犯者」、ブックガイドの方が「トランスジェンダーの仲間と再会する」 (虎井まさ衛編著『語り継ぐトランスジェンダー史』)となっています。


反トランス差別、差別に反対する......というスタンスは、個人的にはあまりしっくりきていなくて。なぜなら、「差別する/しない」という行為の前に、トランスジェンダーの人々は存在しており、差別が現にあるからです。だから差別言説に対して意見するのは、二次的に生じる行為でしかありません。


「あなた、トランス差別したよね?」と指摘されて「トランスヘイター扱いされた」と憤っている人も時々見かけるのですが、安心してください。誰も「あなた」には興味ありません。トランス差別はあまりにも恒常的に起きているため、「あなた」一人の言動はスルーされる可能性が高いし、せいぜい「あなた」は一時的に失職する程度でしょう。もし現実的に、命を失ったり、メンタルヘルスを悪化させたりと酷い変化を生むとしたら、それは「あなた」ではなく、さまざまな形態で差別に直面しているトランスジェンダーの人たちです。しかしそのことは、日々溢れかねないコップの中の水の、最後の一滴が注がれたに過ぎません。が、そうしてトランスジェンダーの人たちの生き難い未来が訪れます。なにも今に始まったことではありませんが。

(※トランスヘイトに加担する「あなた」は、もしかしたらトランスジェンダーの当事者なのかもしれません。こんな世界ですから、トランスジェンダーであることを諸悪の根源だと思わされて、自身もトランスに敵対的になるのもやむを得ないのかもしれません。でも、どうか耐えてほしいです。あなたがそんなにも自己嫌悪に陥るほどの腐った世界を、はやく終わらせましょう?)


「トランスヘイト」に注目が集まると、現実に生きるトランスジェンダーの実態は覆い隠されていくように感じます。正確には、そもそもトランスジェンダーのことは想定されていない世界だし、埋没志向のバイナリーなトランスジェンダーの人自身も、ことさらにカミングアウトして表舞台に立つことが少ないので、実態が知られたことなんてないのでしょう(少しでも知っているとしたら、身近にトランスの知り合いがいる人くらいかな?)。

でももはやこんな状況ですから、せっかく焦点を当てるなら、一次的な話、トランスジェンダーの人々の生き様にこそ、向き合う必要がありますよね。


ということで、私が書かせてもらったことは、本書の趣旨に合っているのかは分かりません。が、ともかく「一時的なことにも目を向けよう」くらいのメッセージは書けるかなと思いました。『われらはすでに共にある:反トランス差別ブックレット』に新たに執筆させてもらったこと、感謝いたします。


【エッセイ】では、好きに書きました。書き始めるまでうんうんと悩んでいましたが、スタンスが決まったら早かったです。


【ブックガイド】は、元々依頼を頂いていたわけではありませんが、編集者さんにお願いして執筆を許してもらいました。ありがとうございます。最近はトランスジェンダー関連の優れた本が出ていますが、それ以前の蓄積も大事にしたいと思ったので、20年前の2003年に刊行された『語り継ぐトランスジェンダー史』をご紹介しました。


ブックガイドを書く際にますます自覚できたのですが、私の認識も変わってきたようです。

昔のトランスの本は、正直「現在の自分にはタメにならない」と思って、積極的に読もうとしてこなかったのですよね。

というのも、「どこで胸オペするのがいいのか?」「ホルモン注射を続けると、どれくらいの時期にどんな変化が起きるのか」「戸籍変更するための手順は?」といった医療や手続きの情報は、今ならインターネット上のブログやYouTubeなどで知ることができるからです。わざわざ20年前の古い情報にアクセスしたところで、そこから「未来の自分」に役立つ情報が手に入るわけではなくなっていました。さらに、「GID規範」と名指されるような、「FTMってこうだよね」「性同一性障害は〜」といった言説に自分が馴染まないことは薄々承知していたので、「自分の物語」として同化して読めなかったからです。


しかし時が経って、読み方が変わりました。「過去の物語」という距離感でアクセスできるようになって、これまでのトランスの本(自伝・エッセイや法律の解釈や、当時の医療など)が面白く感じるようになりました。そういえば、私は世界史や偉人伝を読むのが好きだったなと......。なんだか他者化しすぎているかもしれませんが、ようやく(以前とは違った意味で)距離を保って読めるようになって、素直に情報を受け取れるようになりました。

今言われていることは、過去にも話題になったことがあるし、現在も解消されていないトランスジェンダーへの制度的差別や風潮は、この時から問題提起されていたよな、と。そして、情報が少なくてもたくましく生きてきた先人の姿に励まされました。

自分が若造のような、しかし歳をとったような、不思議な気分になります。



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