場所: 本屋B&B (東京都下北沢の本屋さん。BONUS TRACK 2F)
2022/2/21
周司あきら×高井ゆと里「ジェンダーアイデンティティが分かりません!!」
『トランス男性によるトランスジェンダー男性学』(大月書店)刊行記念 最後のトークイベント
本屋B&Bさんは選書が良く、店内は意外と広くて驚き。
イベント料金が高くなってしまっていたのは申し訳ないです。ただ、それでも予想の数倍の視聴者がいたようで、トランス界隈の言語化を心待ちにしている人たちが本当に多いのだなと感じました。圧倒的に言葉が足りないのです。
私自身は貧乏学生でろくに本も買えず、スーパーでもやしも買えないひもじさを味わっていた時期もあり、だから本を図書館に置いてもらえて必要な人の手に届くのであれば素晴らしいなと思います。それで、手元に置いておきたい本は一度読んでからでも購入すればよいのです。イベントを視聴していない方は、このブログで1%くらい雰囲気を味わってもらえるかもしれません.....。
「ジェンダーアイデンティティが分かりません!!」というテーマに沿う話ができたかはわかりません。ノンバイナリーの視聴者がちらほらいて、ノンバイナリー島が実は少しずつ豊かになっているのだと共有できたならそれは何より。
私はおそらく「女性の島」にも「ノンバイナリー島」にももう居なくて、居られなくて、「男性の島」に到着してしまったようだから、その中で出来ることを出来たならば光栄です。他の(シスヘテロ的な)男性とはちょっと違う、なんだかスパイのような状況の中で。
さて、なぜ私は「性別がわからない」と言いながら「ノンバイナリー」っぽくないのでしょう?
あるいは「ノンバイナリー」という名乗りを積極的には引き受けていないのでしょう?
これ、「ノンバイナリー」だと最も性別を意識してしまうから、ではないでしょうか。
私は性別を感じなくて済む生き方がしたかった。
すると、「シスジェンダー」かつ「男性」的なポジションでいられることは、性別を感じずに済む生き方に近かったのです。なにより、結果論に過ぎなくとも相性がよかった。男性性をまとった人物として、充分にやっていけると判ってしまった。Bestではないかもしれないが、Betterの中で最上級に良い在り方に感じます。そもそも、世間的に「シス」「男性」向きに社会のありとあらゆるパーツが出来上がっているわけで、そこに適合できるなら生きやすくなるのではないか、とも。
シス男性ではないにもかかわらずシス男性中心に構築された社会に適合することは、多少の居づらさや不都合な点を生むのは事実ですが、(略)そもそも社会全体がシス男性に向けて構築されていますから、シス男性になりきれるのであればなりきってしまうほうがずっと楽になれるのです。(『トランス男性による トランスジェンダー男性学』p.123)
だから私はもはや「性的マジョリティ」に近いところで息をしているな、と自分の立場を捉えています。そして恐れてもいます。私は無意識にあらゆる人を踏んでいるのだろう、という事実を。それがこれから(意思に関わらず)より色濃く立ち現れるであろうことを。
多くのFtX(≒Ft系ノンバイナリー)あるいは性別移行前FtMと、
性別移行後のFtMの違いを見てみましょう。
性別移行前
「トランス(−)」かつ「女性(−)」
性別移行後
「シス(+)」かつ「男性(+)」
私はこう捉えています。
「トランス」の状態とは、性別違和のある状態を指します。
性別違和があって、社会的には女性という待遇で生きること。
それは「−」「−」の、非常に恵まれない、手厳しい状態だと思います。
しかし、性別移行後はどう変わるか。
「シス」の状態とは、性別違和のない・少ない状態を指します。
性別違和を感じずに生活できて、しかも社会的に男性扱いで生きること。
それって「+」「+」の、特権的な状態に位置しているのではないでしょうか。
便宜的な表現に過ぎませんが、私は自身が生きやすくなったという実感があります。それはもはや、性別が足枷にならない世界だと錯覚するほどに。
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